「ダブリン発グローバル外交」:大使からの手紙(10月)

令和8年10月30日
アイルランド・リーガル・イヤー開会の記念式典にて (左から)ドネリー最高裁判事、赤根所長、オドンネル首席裁判官、宮川大使 (令和8年10月撮影)
右から、ジョアン・キング外務・貿易省国連政策課長、オリビア・レスリー多国間関係局長、宮川学大使、廣幡幸治在アイルランド日本国大使館次席
拝啓、
冬時間が始まりました。読者の皆様、いかがお過ごしでしょうか。

1 ダブリンを舞台とした外交
本年後半のEU議長国を務めるアイルランド。10月は折り返し点。EU関連会議を軸に、国際会議も開催されました。赤根智子国際刑事裁判所(ICC)所長を迎えてのリーガル・イヤー開会式、サイバーセキュリティ会議、国際AIサミット、グローバル・バイオエコノミー・サミットなどです。
各行事のテーマは相互に連関します。例えば、信頼できるAIの普及と、サイバー空間における違法行為の取締り。また、サイバー、AI、バイオエコノミー分野での国境を越える活動を国際的ルールに基づき律する、「法の支配」との共通課題があります。

2 日本とアイルランドの協力
(1)法の支配
日本とアイルランドの間では、ルールに基づく国際秩序の重要性について見解が一致します。最高裁判所での赤根智子ICC所長とドナル・オドンネル最高裁判所首席裁判官の講演は、国際法の支配を徹底させていくべき点で一致しました。
また、9月の国連総会での高市早苗内閣総理大臣とミホル・マーティン・アイルランド首相による演説でも、多国間主義、法の支配の重要性などについて、共通する考え方が表明されました。
サイバーセキュリティ会議&展示会でのパネル討論。左からリチャード・ブラウン・アイルランド国家サイバーセキュリティーセンター長、ブリジッド・ウォルシュ・カナダ・サイバーセキュリティーセンター副所長、フロリアン・シュエツ・スイス国家サイバーセキュリティーセンター長、ルーカス・ウォジェワダ・ポーランド・デジタル省サイバーセキュリティー局長 (令和8年10月撮影)
サイバーセキュリティ展示会の会場
(2)サイバーセキュリティ
昨年の日アイルランド首脳会談において、サイバーセキュリティ分野も含む安全保障分野で連携していくことに一致しました。
日本は、国家安全保障戦略(2021)の中で、「同志国等と連携した形での情報収集・分析の強化、攻撃者の特定とその公表、国際的な枠組み・ルールの形成等のために」取り組むと定め、また、サイバーセキュリティ戦略(2025)の中で、「厳しさを増すサイバー空間を巡る情勢に切れ目無く対応できる、世界最高水準の強靱さを持つ国家を目指す。」としています。
外務省に、サイバー政策担当大使が設置され、欧米、アジア諸国などと二国間のサイバー協議を重ねてきました。筆者は、アイルランド国家サイバーセキュリティ・センター等と、協力の進め方について、意見交換を重ねています。サイバーセキュリティに関する両国間協議は、知見の共有、協力と成果の国際社会への還元といった意味で、大きな意味を持ちます。
ダブリン国際AIサミット会場でイコール1社と話すミホル・マーティン首相(令和8年10月撮影)
国際AIサミットで開会の辞を述べるヘナ・ヴィルクネン欧州委員会上級副委員長
(3)信頼できるAI
AIサミットの会議場には、政府及び企業のブースが設けられ、量子技術のEqual1や人材供給のIndeedといった、日本と関係が深い企業も出展し活況を呈しました。AIとどう共存し、またAIを健全な形でどう活用していくことができるか。日本とアイルランドの間において、知恵を出し合い協力を深めるテーマです。日本は、近い将来、AIサミットをホストする意思を表明しています。アイルランドと共に、成功を目指して協力していきます。
ユニバーシティー・カレッジ・ダブリンにおけるバイオエコノミーに関するセミナー 白石晃將・京都大学教授(中央右)、コリン・スコットUCD学事局長兼副学長(左から2人目)、スティーブン・ゴードンUCDおよび北海道大学教授・日本研究副センター長(左端)、小舘尚文UCD教授・日本研究センター長(右から2人目)、宮川学大使(中央左)(令和8年10月撮影)
グローバル・バイオエコノミー・サミットにスピーカーとして出席した日下部裕美子プラチナバイオ株式会社Chief Strategy Officer(左から2人目)と各国からのパネリスト(写真:日下部様から提供)
(4)バイオエコノミー
サミットには、日本の官民学の代表が参加しました。日下部裕美子プラチナバイオ株式会社チーフ・ストラテジー・オフィサーは卵アレルギーへの対処との切り口から、バイオエコノミーへの取組について披露しました。また、白石晃將・京都大学助教は、微生物のメカニズム、バイオエコノミーに向けた農業・環境分野への応用などの観点から、会議に貢献するとともに、ユニバーシティー・カレッジ・ダブリン(UCD)で講演を行いました。政府からは内閣府事務官が出張して参加し、大使館からも出席しました。
クレア県のプルナブロン・ドルメン(令和8年10月撮影)
クレア県のモハの断崖(令和8年10月撮影)
3 日アイルランド外交関係樹立70周年に向けて
来年は、両国外交関係の樹立70周年です。2022年、マーティン首相訪日時に、共同声明 「共通の野心によるパートナーシップの前進」が採択され、両国関係をより高いレベルへ引き上げる決意が表明されました。来年は、この共同声明の発出から5年。両国協力の進展を振り返り、現下の国際情勢の下、今後の協力の方向性を打ち出すのに良い機会です。

AI、サイバーセキュリティのような新たな分野の協力、多国間主義の推進、日本が準参加したEUの「ホライズン・ヨーロッパ」を通じた研究協力、核不拡散分野での協力、貿易・投資関係の強化など、協力事案は盛り沢山です。
加えて、文化、スポーツ交流。2つの国が心の最も深いところでつながる交流・協力も枚挙に暇がないほどです。
読者の皆様も、70周年についてアイデアをお持ちであれば、大使館にご連絡ください。それでは、来月また、アイルランドのどこかで、このページでお会いすることを楽しみに。
敬具

宮川学
駐アイルランド日本大使